研磨の道を歩んで50年。人に例えるなら半生を仕事に捧げてきました。10代のうちから職人になって、いつしかこの職業に魅せられていました。最初は私を含め社員は4人。当初は台所用シンクを研磨していましたが、のちに事業拡大のため、溶接や板金もはじめました。
一時、業界全体に危機が訪れたこともあります。製造がコストパフォーマンスの高い海外の企業に奪われてしまったんです。ただ、その中でも当社は研磨の技術に関して、妥協したくありませんでした。ですから、海外の企業ができないような手仕事の研磨にこだわって続けました。
この決断は間違っていませんでした。その後、単価が高くてもよい品質を求める注文が増え、我々も「磨き屋」としてさらに誇りが持てるようになりました。
一般的な研磨の世界は卓上研磨機が主流で、主産物はカトラリーなどの小物がほとんど。大きな製品はほとんどありません。対して当社は大小問わず、幅広く取り扱っています。ラインアップは美顔ローラーやヘアブラシといった小さなものから、トラックのホイールやバンパーのような大きなものまで。あらゆる形状の製品を磨き上げています。
ナンエツ工業の強みは、種類豊富なプロダクトを手がける技量があること。そしてなにより、ブラッシュアップしたあとの商品にアレンジを加えられることですね。例えば、金属アレルギーの人向けに、皮膚への刺激をおさえた加工を施すこともできます。このような技術は当社でつくった髪飾りやヘアクリップなどに活かされていますよ。
研磨は高速で回転する砥石に商品を当てながら、数ミリ単位で磨いていくのですが、研磨剤を塗って摩擦熱による影響を防いだり、アルミナという研磨剤を使い表面の光沢をあげたりと、どれだけ美しく研磨するかこだわり出したら止まりません。ですから「研磨は3年やるともうやめられない」とよく言うんですよ。それだけハマる仕事だと思っています。
ものづくりの世界は、やはり素直な人が成長すると感じます。先輩などの意見を取り入れて、常にチャレンジし続ける。そうすることで技術はおのずと高まっていくのです。最初から「仕事だからやっている」というモチベーションでは、せっかく身につくはずの技術もフイにしてしまうかもしれません。
オートメーションのつぶしが利かない研磨業界で、質の高い商品を生み出せるかどうかは、ひとえに職人の技量にかかっています。ただ、その分裁量が大きいことが魅力なんです。どこから磨こうが、その職人の自由。とにかく仕上がりが美しければいいのですから。
キレイに仕上がれば自分も気分がいいし、お客様にも感謝していただけます。ですから、常にお客様への感謝の気持ちを持ち続けて研磨に勤しんでいれば、必ず結果はついてきますよ。この先も顧客第一の考えを根底に、一生現役で働き続けたいですね。